とある全寮制の学校の話だ。何年も前の話だ。
その学校からのお便り的なものに載っていた話だが、うろ覚えだ。おゆるし願いたい。
全校生徒の集会が開かれた。
議題の一つは、寮の消灯時間を遅くして欲しいと学校に要望するかどうか、ということだった。
「遅くして欲しい」という意見が多かった。それも当然だろう、今の日本では夜中も明るく照らされ、学生達にとってはそれが自然だ。
一方で「夜更かしするのはどうなの?」という意見もけっこうあった。
わりと白熱した議論が続き、それでも「遅くして欲しい」という方向に場の空気が傾いた時だ。一人の学生がぼそりと言った。
「夜は暗いものです」
全員が静まった。
一人一人の心の中にその言葉が静かに落ちていって、静けさが終わった時には、消灯時間は変更なしで、ということに落ち着いていた。
空を見上げない限り、今が昼なのか夜なのかわからないほどの明るさ。空を見上げても、黒いから夜だとはわかるが、星がわずか数個しか見えないほどの、地上の明るさ。
夏、外は摂氏35℃にもなろうかというのに、建物内や乗物内では上着を着ても風邪をひきかねない寒さ。
冬、外は雪が舞っている。店内に入った客は厚いコートで汗ばみ、店員は薄いブラウスと上着で爽やかな笑顔。
亜寒帯から亜熱帯へ、ドア一つで行ける。
そこは地球なのだろうか。
もちろん地球だ。わたしたちはまだ地球以外の場所では生きられない。
だが地球にニセの仮面みたいなものをかぶらせているんだ。
その仮面の恩恵にあずかっているんだ。