2013-03-12

あんずの花の匂う夜 / 鵜崎庚一・田中冬二

“匂うてくる” と歌う瞬間がとても美しい。澄んだ香気が立ちのぼる。

短い歌だ。
大きな古い家、暖色のランプの光のなかで、みんながいる。
というだけの。

やわらかく少し揺らぐ和声は、ランプの火の揺らぎなのか、みんなの笑い声の揺らぎなのか。
それぞれが心の中に抱えるものを持ちつつ、みんなでいることに安らいでいる、その揺らぎなのか。
揺らぎ漂っている響きがすっと焦点を結び、星が見える。空気があんずの香りになる。

いまこの歌を歌うなら、鎮魂の思いがこもるのではないか。
みんながいる。


2013-03-09

清少納言のことを考える

中学生は
「はるわあけぼのよーよーしろくなりゆくやまぎわすこしあかりて(以下略)」
と暗唱させられる。
たぶん日本中の中学生がそうなのではないかと思う。

高校生になると、古文の先生は必ず教えてくださる。
紫式部の源氏物語は「あはれ」
清少納言の枕草子は「をかし」
の文学です。と。
また、清少納言の特長は鋭い感性であると。

専門家の方々がおっしゃることだから正しいのだと思う。異論はない。
しかし、ちょっと言いたいことがある…

清少納言の特長を「鋭い感性」とのみ教えていいのデスカ?
あの人の精神の本質は別のところにあるのではないデスカ?

『枕草子』第一段を見よ。
中学生の苦行に用いられるその部分。
春、夏、秋、冬、を清少納言は鋭い感性であざやかに描き出してゆく。
そしてその感覚を、
「をかし」≒イイ感じ  「あはれなり」≒グッとくる 
等の言葉で表現している。すばらしい。

しかし、春夏秋冬をそれらの言葉で讃えておいて、最後に締めくくった言葉は…
「わろし」≒ダメだ

美しい風景を列挙したあとの、締めの言葉が。「わろし」
これ、このダメ出し精神こそが清少納言。
をかしよりも、鋭い感性よりも、ダメ出し精神。これが清少納言。

と愚考するのですが。どうですかね…?

2013-03-06

枕草子 / 清少納言

日本史上もっとも好きな人物は? と訊かれたら、答えは「いない」
だが、日本史上で2番目に好きな人物は? と訊かれたら「藤原隆家」だ。

なぜ2番目か。
言葉にするとあやふやな感じになるが… 1番好き!と断言するには、歴史上に大きな働きを残したわけでもないし、新たな道を切り拓いたわけでもないし、何かを成し遂げたわけでもないし、、、、
だが隆家卿より好きな日本史上の人物はいないので、1位無しの2位。

その藤原隆家の活躍を読める書物は、あまりない。
数少ない書物の一つが「枕草子」

1000年前の女性のミーハーっぷりを知るには、この本は最適。
清少納言さんは1000年前の美形ウォッチャーだ。頻繁に登場する美形は、隆家の兄の伊周。頭中将・藤原斉信。頭弁・藤原行成。そしてラスボス・藤原道長。
別格は、清少納言の雇い主でありクイーンである中宮・定子様。このうえなく讃えられている。

隆家少年は定子様の弟にあたり、ほんの数回だが「枕草子」に登場する。
おそらくやんちゃ少年で清少納言さんの好みとは違ったのだろう、登場回数は少ない。だが印象的な描写で、人となりがよくわかる。


美形についてだけでなく、ほとんどあらゆることに言及する清少納言。その審美眼の厳しいこと。
男性の立ち居振る舞い、女性の内面がにじみでる言動、
貴族の乗用車、庶民の家、月の光、鳥の鳴き方、虫の動き、等々すべてにダメ出しが。
蠅に文句をつける彼女。…その気持ちはわかる。

ちょっといらいらすることがある時など、枕草子を読むと、なんとなく笑えてくる。
ああ大昔から私達は似たようなことにイライラし、感動し、難癖をつけ、気にし、喜び・・・続けてきたんだなあ、と思う。