2012-12-28

平清盛 by NHK (三たび)

大河ドラマ『平清盛』の最終回放映が終わった。
まず(私的な)結論を。

〈『平清盛』は大河ドラマ史におけるロックの誕生だ。〉

この『平清盛』が映画だったなら、驚きは少なかっただろう。
深夜ドラマだったなら、感心しただろう。
日曜20時の大河ドラマという、伝統を誇る枠の中で生み出された作品であるということに、感嘆する。
断崖をスキー板だけで滑り降りるような、非常に勇気ある挑戦だったのではなかろうか。スタッフにとっては。

どの場面の表情も、台詞も、今見え聞こえている以上のものを奥に隠し持っているようで、一瞬も画面から目を離せなかった。台詞を聞き漏らすわけにいかなかった。
(そして実際に、台詞はその物語の未来においてもっと深い意味を持った。はるか後の場面でそれが明らかになるのだ)
視聴者にこれほど集中力を求める大河ドラマが過去にあったか?


撮影スタッフが可能性にとことん挑んでいることが察せられる、攻めのカメラワーク。
素晴らしい絵画を思わせる照明。
豊饒な音楽。美味なご馳走のようだった。
千年ちかい昔の社会が、今そこにあるかのように存在していた。猥雑で、いかにも疫病が発生しそうな空気。物の怪が現れてもおかしくなさそうな、目に見えないものを怖じ畏れる人々の佇まい。

何よりも、清盛という、過去数百年を悪役としてしか認識されてこなかった人物を、悪役でない一人の人間として前からも後ろからも内からも外からも描き尽くした。魅力も功績も優しさも野望も、権力に溺れ闇に呑みこまれる姿も、闇から立ち上がる姿も。
そして歴史の醍醐味を最終回に味わわせてくれた。長射程で世界を眺める感覚。時間のなかで人の力が連なるのを俯瞰する感覚。

スタッフも役者も攻めていた。今までに築いてきた何かを守ろうとする姿勢は感じられなかった。

連想する。
クロード・モネが「印象・日の出」を世に出した時、どれほど馬鹿にされたか。
エルヴィス・プレスリーがロックンロールを歌い踊った時、どれほど叩かれたか。
そして、それまで美術や音楽に興味のなかった人々がどれほど熱狂的に支持したか。

『平清盛』が現在の日本で、大半の人々から貶されていること、少数派のファンからは非常に愛されていること、を考えると。

〈『平清盛』は大河ドラマ史におけるロックの誕生だ。〉

と思うのだ。


一方で、けっして批判的ではなく、できれば見続けたかった人々もいる。
とある友人。歴史に興味なかったが一昨年の『龍馬伝』にはまり、昨年の『江』も観た。
その人は
「『平清盛』はだんだん見なくなった。平安時代は難しい。わからなくて」
と言っていた。
この友人のためには、人物の関係の複雑さ・社会階層の関係の複雑さ・当時の文化レベル・当時の常識、等について分かり易い説明があれば良かったのかもしれない。
このあたりは、今後、戦国以前のドラマが制作される時に、フィードバックして改善されていたら良いなあ。



余談:
深田恭子という俳優さん。今までは「凄い美人だけど演技はイマイチかなあ」と思っていたが、『平清盛』の一年間で、時子の約50年間をみごとに生きてみせてくれた。
最期の場面。
「海の底にも都はござりましょう」
ため息のようでありながら決然と。温かさと慈愛にみちた声で。胸に残る場面だ。

つい先日、買物でレジ待ちしていた時、ふいにこの時子の声が耳によみがえり、いきなり涙ぐんでしまった。レジのおねえさんはさぞ不審に思ったことだろう・・・


 


2012-12-09

この愛がある

知人に、さまざまなボランティア活動に関わっている人がいる。穏やかで優しいおばあちゃん、という雰囲気の人だ。Aさん、としておく。
そのAさんから聞いた話。


 ・ ・ ・ ・ ・

地域で子ども達を見守っているグループがある。Aさんはそのグループにも少し関わっている。
ある時、そのグループから一日限りの子守りを頼まれた。
親に所用があって、その日は子どもの面倒をみることができず、他に子守りの可能な人がいないので、「その日だけ、どうかお願いします」とのことだった。

6歳、4歳、2歳、の三人兄弟だった。
Aさんは子ども達とおしゃべりしたり、遊んだりした。うちとけてきた。
6歳の子が言った。
「お母さんがぼくを殴るの」


Aさんは、お母さんが大きなストレスを受けていて、そのストレスを発散することができず、子どもに当たってしまう、という印象を受けた。
そのお母さんは、地域の子ども支援グループに関わりを持っているくらいだから、子育てに無関心ではないだろう。むしろ熱心かもしれない。
体罰が良くないとは知っているだろう。
それなのに殴るということは、それほどやり場のないストレスが、お母さんを蝕んでいるということだ。


そして6歳の子どもはこう言った。
「殴らせてあげるんだ」

 ・ ・ ・ ・ ・


こんなに大きな、かぎりない愛を、子どもは親にそそいでいる。

自分を止められずに我が子を殴ってしまう親たち。
そんな自分を良いとは思っていないだろう。自己嫌悪でいっぱいかもしれない。苦しみの中で溺れているような感じかもしれない。
「誰か助けて!」という叫びで心の中はあふれているかもしれない。

あなたを、あなたの子どもが救おうとしているよ。
あなたが落ちている所へいっしょに落ちて、なおかつ引き上げようとしてくれているよ。

それほど深く愛されていることに、どうかあなたが気づきますように。

2012-11-18

野の花

今まで、飾る花は花屋さんで買っていた。
最近、河原の道端に咲いている花を摘んで飾っている。雑草と呼ばれる花だ。

白。黄。薄紫。濃紅。さまざまな色をもつ秋の花々。
香りが高い。甘い香り。
葉の緑も濃く、元気な色だ。
そして、驚くほど長持ちする。花屋さんで買った花よりはるかに長寿だ。
健康なんだな。大地と太陽の申し子たち。

2012-10-06

平清盛 by NHK (再び)

物語が中盤にさしかかる頃に一度感想を書いたが、序盤→中盤→終盤・・・と、どんどん目盛りを振り切っていくようなスケールアップぶりに、度肝を抜かれている。
TVドラマとしてとてつもないものが生まれる瞬間に立ち会っているような気がしなくもない。本当にそうなのかは、ドラマが最終回を迎えてみないとわからないけれども。


俳優陣の深く凄みある演技は言うまでもなく。

全てのシーン、セリフが後への伏線としてつながり、また、はるか前のシーンから地下水のようにつながってきて「そうか、あれはここの言葉につながる運命だったのか!」とわかる時の驚き。しかもそれが心を抉るような場面だったりするから…
(とはいえたま~に、「ん? ・・・B級映画?」とあっけにとられるようなシーンも。息抜きタイムと思って観てたり)

照明と撮影にも驚かされる。
第38回の、たそがれどきに後白河法皇と建春門院滋子が語り合う場面。つと後白河院をふりむいた滋子の顔が、夕闇のなかにふわり浮かんで、まるでフェルメールの絵みたいだった。美しかった!

吉松隆さんの音楽が美しい。痛みを感じる。
いま、物語が平家の栄華から滅びへ向かういまになって、あの華やかなテーマ音楽は平家への哀歌、哀悼の音楽なのかと思う。

今日はこの大河ドラマ「平清盛」を交響組曲としたコンサートが放映されるらしい。舘野泉さんの演奏ももちろんあるのに…仕事で観られない。残念。


2012-10-02

憲法はまだか / ジェームス三木

まがりなりにも67年間、国家として他国へ出かけて行きその国の人を殺すことをしていない。その国の自然や建物を破壊することをしていない。
他の国の軍がいくつかの国を攻撃することは止めなかった… そこは誇れない。が、ともかく67年間、国家として他国人を殺していないことには、ほっとする。

それは連合国軍総司令部(GHQ)に押しつけられた憲法のおかげだ。
「押しつけられたとはいえ平和憲法を守ってきた」という意味の文章を、最近ネット上で見かけた。
この言葉は、さまざまな立場をとる人が言いそうだ。さまざまな気持ちを込めて。

押しつけられたものであっても、この憲法のおかげで殺さなくて済んでいる。破壊しなくて済んでいる。
日本には良いところも悪いところもあると思うが、これは誇りに思えるところの一つ。

日本国憲法の成立過程がていねいに描かれているのが、この本だ。
GHQにも日本政府にも思惑があり、力技・大技・小技・裏技とりまぜ駆使した攻防があったことがわかる。
そして、思惑だなんだを超えて人類の最良の部分を、最大瞬間風速のような勢いでこの憲法に込めようとした人々の思いを、想像する。

第9条は好きだ。良いとか悪いとかの理屈でなく。このような理念を照れもなく臆面もなくかかげることのできる人類、という現実に「人間もまだ捨てたもんじゃないな」という気持ちになれる。


2012-09-06

おやすみ(6つの子供の歌より) / 三木露風,中田喜直

疾走感。初冬の幻想。
幻想の国へ渦を巻いて流れ込むようだ。
「おやすみ」と言いながらこのテンポ、子守唄ではない。
この曲で寝かしつけられる子どもの夢は、どんなに美しく渦巻くだろう。ふしぎなもの、美しい色が、きっとめくるめくような夢だ。
雪の頂が眼前に、と思うと遠くなり、また近くなり、風が鳴り、鐘が響き、落ち葉がささやき、赤い服の大きな姿がちらりと見え、暖かい部屋でぬくぬくにくるみ込まれて…

うらやましいなあ。この歌で寝かしつけてもらう子ども。
良い夢を。よくおやすみ・・・

2012-08-08

冷たいトマト 夏の麺レシピ


1 完熟トマトを凍らせる。

2 トマトをフリーザーから出し、皮をむく。(ツルリとはがれる)

3 そうめんをゆでておく。

4 トマトが凍っているうちに、すりおろす。(手がすごく冷たくなる!)

5 4 に味付けする。
  トマト自体が充分に美味しい場合・・・塩コショウのみでいける。
  トマトがイマイチな場合 or 濃厚な味が好みの場合・・・イタリアン・ドレッシング等で。

6 冷やしたそうめんに 5 をかける。お好みで薬味を散らして。


トマトかき氷そうめん、という感じです。シャリシャリです。
そうめんじゃなく細いパスタにすれば、よりイタリアン。
でも、ゆで時間はそうめんのほうが早い。

ご近所様から教わったレシピ。

2012-07-22

自戒

人は欠点を持っている。他人から非難されてもしかたない部分を。

そこで、その場にいない人の欠点を批判する。
言うとスカッとする。
自分にも似たような愚かさがあることを、言ってる瞬間だけは忘れている・・・

人の悪口を言うとスカッとする。・・・するのか?
それを聞かされる側の気持ちを、知っているだろうか。

最近立て続けに、複数の知人から聞かされた。
たとえば、ある行動をする人々への罵倒を。
たとえば、共通の知人への非難を。
たとえば、失敗した人たちを馬鹿にする言葉を。
たとえば・・・まだまだたくさんある・・・
そしてどの話もくどく、しつこく、長い。
悪意ある言葉を第三者に聞かせる時、たぶん、「自分の言っていることは悪口ではない、誰もが感じることなのだ」と確認したくて、相手が同意してくれるまで引っ込みがつかないのかなと思う。

聞かされる側である私の気持ちは。
「私はゴミ箱じゃない!」
私は、あなたの負の感情を吐き捨てるゴミ箱じゃない。
私を友人だというのなら、ゴミ箱扱いしないでくれ。

言った人はスッキリするのだろうが、その汚物のような感情をぶつけられた側は吐きそうだ。


愕然とする。
私も、友人の誰かに対して、同じことをしていないか。

2012-06-21

ドレミパイプ(Boomwhackers) ~意外な効果

叩いて鳴らす、筒状の楽器。
直径数センチの筒を握れて手首または腕が動かせる人なら誰でも、簡単に鳴らせる。軽いしね。
カラフルな色。長いのや短いの。
そのうえ、手、肩、お尻、脚、そのへんにある物、などさまざまな場所を叩いて音が出せる。だからパフォーマンス楽器としてとても楽しい。
ここまではよく知られた、この楽器の魅力。

そしてもう一つ。ドミソなどの和音を響かせた時、ある意外な効果が現れる。

泣いてる赤ちゃんが泣きやむのだ。


赤ちゃんを対象にした音楽遊びで用いて、のべ100人を超す赤ちゃんに聴かせてきた。
全ての赤ちゃんが静かになり、目をみはり、吸い込まれるように聴き入る。
ぐずっていたり、泣きわめいていたりする最中でも、和音が響いている間だけ、シ~ン・・・

音がやむと、「そうだった、オレ泣いてたんだよ」と思い出すのか、また泣き出す子もいる。(ここらへん、かわいい)

なぜ泣きやむのだろう?
和音で鳴らした時の、あの独特のボワンッ・・・と広がる倍音の中に、赤ちゃんの聴覚に非常に訴える波長があるのかな?
誰か、聴覚の研究者さんとか零歳児教育の研究者さんとかが、調べてみたら面白いんじゃないかな。もう誰か調べてるのかな。

ちなみに、単音ではほとんど効果なし。和音でないとダメなようだ。
最も効果大なのは、通常音域のセットではなく、ベースセットという長~いやつで低音和音を響かせた時。
通常音域のセットにオクタベーターというフタ状のものを取りつけたら、たぶんベースセットと同じ効果が得られそう。

2012-06-10

大きな前庭 / クリフォード・シマック

長いこと本棚の奥にしまってあって、何年ぶりかに取り出して読んだ。

ほっとする。
ただ本棚にあるというだけで、ほっとする本。クリフォード・D・シマック。

アメリカの農夫たち。大地とともに生きる農夫たち。
風と、日照りと、雲と、雨と、おんぼろ自動車とポンコツ農機と、犬や馬やスカンクや、とうもろこしやチーズ。
そんな彼らが、全人類を代表する。銀河系宇宙に対して。
宇宙からやってくるあまたの客人が地球で降り立つ駅は、農夫の粗末な家。
「こんにちは」「はじめまして」を言う相手は、全人類を代表するアメリカの農夫。
折れない心をもっている。大きな愛情をもっている、土地や作物や隣人や…自分のまわりのすべてに。

1950~60年代SFの明るさ逞しさが、すこし懐かしく、切なく、まぶしく見える。
「人間を信じている」と読める。
良心を、かな。根っこのところでの道義心、かな。
人間は未来をより良いものにしていくはず、と。人類はより良く成長するはず、と。

シマック、ごめん。今どうだろう。わたしたちは。
根っこのところでの道義心は、今どうだろう・・・


2012-05-22

Il fervido desiderio / Bellini

「激しい希求」と訳されている。この曲のひっそりした甘さ切なさには、もう少しべつの言葉を当てたい気もする・・・

前奏からこのうえなく清らかで美しい。古典派の弦楽四重奏を想う時もあるが、より華奢でロマンティックな感じだ。すごく薄く織られた絹とか、ひっそり咲いている花とか。
繊細な木管楽器のような間奏とアジリタ、愛らしいときめき。もっとドキドキする中間部で伴奏のリズムが、恋い焦がれている心の内を語っている。

こんなにシンプルなのに、こんなに短いのに、こんなに豊か。ベッリーニすごい。


2012-05-06

平清盛 by NHK

大河ドラマに興味がもてなくて、今までろくに観ていなかったのだが。
今年はなんだか観ている。

松山ケンイチのパワーから目が離しづらい。スケール大きな演技にハッとさせられる。次には何を見せてくれるのかと期待する。
他のキャストも、重量級というかけれん味たっぷりというか腹にこたえる演技を見せてくれる人が多い。楽しい。

建物や衣装や人々の佇まいなど、時代考証がわりと正確に近いような感じに見えるとこもいい。
過去の大河ドラマに退屈したのは、
「その時代に、その身分の人があの身分の人に、そんな口のきき方できるわけないだろ~・・・」
「その時代の下層民がそんなツルスベぴかぴか女優さんみたいに(じっさい女優さんだが)麗しく衛生的なわけないだろ~・・・」
等つっこみたくなる現代っぽさも理由の一つだった。そういうとこに醒めてしまうと他の全てに醒めてしまう。

視聴率は低いらしい。そうか。わたしの好みは世間と逆か。

2012-05-02

前田建設ファンタジー営業部

前田建設というゼネコンがあるそうだ。その会社の中のファンタジー営業部という部署が、これまでに手がけたプロジェクトは、大きなものが5つ。
手がけたといっても営業部だから、発注を受けて見積もりを出すところまで。

プロジェクト01・・・・・マジンガーZ地下格納庫建設
プロジェクト02・・・・・銀河鉄道999高架橋建設
プロジェクト03・・・・・GRAN TURISMO4グランバレースピードウェイ建設
プロジェクト04・・・・・民間国際ロボット救助隊創設
プロジェクト05・・・・・機動戦士ガンダム地球連邦軍基地ジャブロー建設

01と02は文庫本になった。
03と04を飛ばして最近、05が単行本として出版された。なぜ05だったのかな? ガンダムならファンに受けるからかな。
このタイミングで出版するなら03と04だっただろうに。


この1年間、この国でわたしたちは、電力・エネルギーというものに否応なしに向き合わされてきた。いかに無駄な電力を使わないか。いかに必要な電力を確保するか。
また、汚れるエネルギーでなくきれいなエネルギーの必要性をひしひしと感じざるをえなかった。

揚水発電というものを、プロジェクト03でわたしは初めて知った。こんな便利な、良いものがあったとは。きれいなエネルギーって太陽光とか風力とかばかりじゃなかったんだね。
なぜ電力業界の人達は揚水発電のことをもっと言わないのだろう?
と思っていたら、今日のニュースで揚水発電のことが。


この1年間、この国でわたしたちは大きな災害への対処のしかたを様々に模索し、学び続けた。
プロジェクト04では2006年現在の災害救助の最先端が取材され、報告されている。そこに書かれた情報は、一般の人々も知っておくべきだろうと思う。災害や事故に、対処する知識の有無は重要だ。
04は今出版されたら良いと思うのになあ。


前田建設ファンタジー営業部のサイトはこちら。



2012-04-19

Feel Happy / 原田真二

むかしむかし、まだあどけなかった頃、原田真二という歌い手の歌に惚れこんだ。お小遣いをためて『Feel Happy』というLPレコードを買った。
今もきちんと棚にある。

スピッツの「タイムトラベル」を聴いて思い出した。

「タイムトラベル」アレンジは原曲の雰囲気を保っている。声の質も似ている。
でもスピッツの歌はあのぼそぼそ感が魅力なわけで。
だから原田真二の歌がはらむ熱風は、カヴァー曲からは聴こえない・・・

むかしはアルバム終曲「黙示録」の、静謐が好きだった。
今なら「Sports」がいいなあ。思い切りのよさ。力強さ。単純さ。
目の前にある生をただひたすらに生きていくこと。

きっとそこから見えてくるものもあるだろう。

2012-04-13

料理長が多すぎる / レックス・スタウト

グルメで、蘭の栽培に情熱を注いでいて、巨漢で、乗り物を絶対信用しない私立探偵、ネロ・ウルフ・シリーズの5作目。

6作目の「シーザーの埋葬」が一番好みだ。好みだけで言えば。
広々としているし。青空の下だし。お気に入りキャラ、リリー・ローワン初登場だし。
大動物が登場するし。大きな動物が威厳にみちてゆったりとそこにいる、という光景は、いいなあ。たとえ悲しい結末が後にやって来るとしても。

この「料理長が多すぎる」も、けっこう広々していて青空率高めだ。
いつもはニューヨークの家に閉じこもって絶対外出しないウルフが、南部の保養地へおいしい料理を食べにお出かけだ。シリーズ中でも非常に美味率の高い作品だろう。
だが何よりも、この作品で表現されている、自由とか尊厳といったもの、それらがこの作品を傑作にしている気がする。

これが書かれた1938年という時代、アメリカ合衆国で。
黒人の使用人に敬意を払い対等に話す、ということはどれほど驚くべき事だったのだろう?
ウルフはそれをする。民主主義者とおもわれるアーチーにさえ、おそらく無自覚な偏見と差別をベースにした言動が見られるのに。
たとえば17作目「黒い山」などを読んでもそうだが、作者スタウトの、自由と人権を尊重する強い意志を感じる。社会に流されない姿勢を感じる。

作中でイタリア人シェフが作ったサラダのドレッシングがとても美味しそうで、読むたび「こんど作ってみよ」と思う。が、まだ実行していない。
焼きたての、皮のパリッとしたパンが必要っぽいのだ。でもそんなおいしそうなパン買ったら、ドレッシングの材料にするより食べちゃうしねえ…


2012-04-07

I Pastori / Pizzetti

「牧人たち」というタイトル日本語訳をよく見る。
でもこの「牧人」、10代の人々は「まきと」と読むよ・・・ 日本男子の人名ではないんだよ・・・
素直に「羊飼いたち」と訳すほうが良いのか…?

悠、という文字が浮かぶ。
悠久の悠だ。
はるかな時  はるかな広がり …

悠かな響き。
遠い古代から現在へ、連なりつづけている。

前奏の開始音から最後に消え去る響きまでのあいだ、「今、ここ」を含めた果てしない時と空間が現れて、その中を旅するようだ。

ピッツェッティの曲のなかではとっつきやすいほうだろうと思う。
日本でもどんどん歌われたらいいなあ・・・
楽譜も出版されたらいいなあ・・・

2012-03-11

三つの不思議な仕事 / 池辺晋一郎・池澤夏樹

混声合唱曲。

不思議な仕事、
 一つめは  「空みがき」
 二つめは  「明日つくり」
 三つめは  「夢売り」

詩が優しい。音も優しい。
涙も出ないほど乾いてしまった誰かの心へ、痩せ細ってしまった誰かの心へ、ふっくらと潤う雨を運んでくるみたいだ。

そして、軽い足音たてて空の上で仕事しているかのような音楽じゃないかな? あの日天に召されてしまった人たちが。こんなすてきな不思議な仕事を。
地上を見守りながら。


2012-03-01

赤毛のアン(アニメ)

個人的には紀元元年みたいな作品だ。
Before 赤毛のアン。 After 赤毛のアン。

Before,   「アニメに出てくる女の子」として脳裏に浮かぶのはサリーちゃんだったり森雪だったりした。
そんなふうにアンやアボンリーが描かれたら違うだろうな、と思いつつ初回の放映を観て、

こんなアニメもあるんだ~・・・

おだやかな優しい絵。日常の語り口。さわやかなエンディング・ソング。
誇張されない自然な雰囲気でアンの世界が存在していた。
再放送は無理だろうなあ。

2012-02-14

航空宇宙軍史シリーズ / 谷甲州

ダンテ隊長が大変かっこいい。

以上、終わり。

と言いたいくらいかっこいい。
イケメンではない(はずだ)し、立ち居振る舞いはガサツでダサい(はずだ)。明記されてないのでわからないが。
女性にはもてないが仲間には信頼される男、という感じか。
こういう上司をもった部下は大変だ。無茶に付き合わされて大迷惑こうむりつつ、大文句たれつつ、それでも自分の命を預けるに足る相手と信じてついていってしまうんだろう。
そのダンテ隊長が信じて命を預けた上司が山下准将。・・・
という死を前提とした連鎖がある。死へ向かう連鎖。結局は軍隊なのだ。

太陽系全体に人間の居住域が広がった未来、地球と外惑星との間で長く続く紛争、テロ。
おおまかには殺伐とした話だと思うが、語り口がぶっきらぼうながら明るい。そして主要登場人物の命がだいたい、危機一髪で助かる(例外もある)。そのうえめげないダンテ隊長が雰囲気をさらに明るくしてくれる。
だからダンテ隊長が死んだ話は悲しかった。(たしかシリーズ初登場でお亡くなりになる。後に出版されたのは隊長生前の話)

未来の太陽系を舞台にしたSF小説だが、宇宙での戦闘描写がものすごく現実的だ。花火大会みたいな爆発は起こらない。
地味すぎる。渋すぎる。さすがにエンジニア作家。
最近はやりの技術系マンガを読んだら、この小説シリーズをふと思い出した。


2012-02-02

Stornello / Verdi

かわいい。
この娘、ふられた。ヤツは浮気性なわけだ(くだらない男だった)。
ちょっと泣いたりもしたけど、もう平気。気合い入れた。
ヤツとうっかり出会ったりしても、上からにっこりできる。ヤツにわからせてやれる。
「も、アンタなんか眼中にないから。悪いけどあたし、人気ありすぎちゃってちょっとタイヘン。アンタごときがモテるとか言うのとレベル違うかな? ふ」
ということを表情一つでわからせてやれるわけだ。

この強がり、プライド、前向きさ、かわいらしさ。

ヴェルディがこの娘にプレゼントしたリズム、溌溂として愛らしい。
最後の三連符はとくにかわいい。ちょっととがらせた唇。パッチリみはった大きな瞳。首をかしげてみたりして。

2012-01-28

ドブラックナーフェンの肖像 / 茂木大輔

茂木大輔 著「オケマン大都市交響詩 オーボエ吹きの見聞録」の中の掌編。

小説? スケッチ、と呼ぶのがぴったりだ。
音楽とオーケストラへのいとおしさを、絵筆と絵具にして描かれたスケッチ。

ある男、作曲家であり指揮者である男の姿がさらさらっと描かれている。
冗談で設定されたドブラックナーフェン氏にまつわる、魅力的なエピソード。

淡々とした文章の向こうからユーモアがほんのり香ってくる。
ニヤッとさせられつつ、音楽に満たされる幸福も伝わってくる。
こんな指揮者のもとで演奏したらドキドキわくわくするだろうねえ…


2012-01-01

砂漠 / 伊坂幸太郎

無人島に一冊だけ本を持って行くとしたら、何を持って行く?

ありがちな問いだ。
そんな問いを見かけるたび、反射的に「サン=テグジュペリの『人間の土地』」と思う。

『砂漠』に登場する西嶋君は『人間の土地』に思い入れをもっている。だから同志みたいな気がしなくもない……ホントか? うーん…?

高校生の時に読んで以来、『人間の土地』に最愛賞を贈呈している者としては、西嶋君の(あるいは伊坂さんの?)読みかたにはちょっと違和感がある。当然だがわたしとは違うので。
まあ人それぞれだ。

伊坂幸太郎さんの小説はほとんどが気持ちよく読めるが、『砂漠』はとくに。西嶋君が仮想同志かもしれないから…というより、主人公の大学生たちに共感をおぼえてしまうから。
この本を読んでいると、今まさに過ぎてゆく時というものが、あたたかく大切に感じられる。