2011-10-30

風翔ける国のシイちゃん / 中田夕貴

幼いお姫様が主人公のほのぼのマンガ。

という言葉から想像される世界とは、なんか違う世界がページから現れてくる。
幼いお姫様が主人公、というのは間違ってない。ほのぼのテイストも間違ってない。
しかし上記の言葉からは、シイちゃんの図太さと根性と小ズルさと愛らしさは見えないのだ。

シイちゃんはえらい。いずれは女王さまを継いで国を治める自分である、ということを理解していて、曲がりなりにもノブレス・オブリージを意識している。たまに。
シイちゃんは元気いっぱいだ。好奇心旺盛だ。それで困ったことが起きたりする。母の女王さまからおしりペンペンの罰を受けたりする。
泣いて謝るシイちゃん。しかしあまり反省しているようには見えない。というか反省しているとすれば「次はもっと上手くやったらあ」ということだろう。そのタフさが心強い。そして愛らしい。行けシイちゃん!

残念なのは、絶版であることと、コミックス未収録作品があるらしいこと。



2011-10-17

明るい星

数日前の満月の夜。
忙しさが一段落して、月をちょっと眺めた。白く輝く月をみるのは心地いい。
昇りはじめた月のすぐそばに、明るい星が光っていた。
驚いた、全天の星は月の光に圧されてほとんど見えないのに。

あの星は何だろう、とネット検索することに。
木星とわかって納得。

ちょっとびっくりしたのは、検索を始めた時のこと。
「ひがしのそ」
まで入力したところで、「東の空 星」「東の空 明るい星」「東の空の明るい星」とキーワード候補がズラズラズラ~っと。「東の空 明るい星」を選んだら、10万件を超すヒット。
たくさんの人が夜空を見て、明るい星を見て、「あの星は何だろう」と思ったんだね。
いろんなことを抱えている人たちが、いろんな思いを抱えながら、その瞬間だけは。
あの明るい光は何だろう、と。

2011-10-14

Anzoleta co passa la regata / Rossini

ロッシーニ 天才!と思うのだ。

LA REGATA VENEZIANA 『ヴェネツィアの競艇』第2曲、「競艇中のアンゾレータ」
第1曲もすごい、第3曲もすごい、もちろん。

で第2曲。
ヴェネツィアの海、水面が波立っている。その波立ちが見える。ピアノの響きの中に。
海の見えるありとあらゆる場所を埋め尽くす大観衆、興奮で顔は上気している。彼らの動悸が聞こえる。
その伴奏を背景に、恋人を見つめ手に汗握り「行けー!」と絶叫するアンゾレータ嬢のテンパリ。

イタリアでならロッシーニは音楽の神様みたいに崇敬されているだろうに、なぜ日本では運動会のBGMの人なんだ。
ロッシーニのどの曲にも満ちている、生命のリズム。他の誰も真似できないくらいに、生命の躍動感をまるごと音楽にしちゃった人じゃないかと思うのだ。



2011-10-02

アジア変幻記1『カヤンとクシ』 / 坂田靖子

夜の空気がさわさわと鳴り、樹々がむわっと湿度をもたらし、雲が飛びゆき、・・・

「この世界が命をひっさらってくことがあるんだよ
人間なんてたいしたもんじゃないからね」
おばぁの喋りのなかに、ついでのようにさらりと語られる死。自然への畏怖を知っているアジアの死生観。

男の子が何人か登場する。
王子だったり、浮浪児だったり。利かん気だったり、のんきだったり。骨太に生きている。

坂田靖子さんの抒情短編マンガには、俳句みたいなところがある。
すべてを語らない。短く一瞬で表現されるのは世界のかけらだ。
そのかけらが窓になり、広く深く果ての知れない世界を見せてくれる。
世界がどこまで見えるかは、読み手によるのじゃないかと思う。読み手が内に持っている世界の広さ深さによるのじゃないかと。
こちらの経験が深くなれば、味わいも深くなる。
年を重ねて読むたびに見える世界が広がっていく作品だ。