2011-12-24

夜は暗いものです ~ ある学生の言葉

とある全寮制の学校の話だ。何年も前の話だ。
その学校からのお便り的なものに載っていた話だが、うろ覚えだ。おゆるし願いたい。

全校生徒の集会が開かれた。
議題の一つは、寮の消灯時間を遅くして欲しいと学校に要望するかどうか、ということだった。
「遅くして欲しい」という意見が多かった。それも当然だろう、今の日本では夜中も明るく照らされ、学生達にとってはそれが自然だ。
一方で「夜更かしするのはどうなの?」という意見もけっこうあった。
わりと白熱した議論が続き、それでも「遅くして欲しい」という方向に場の空気が傾いた時だ。一人の学生がぼそりと言った。
「夜は暗いものです」
全員が静まった。
一人一人の心の中にその言葉が静かに落ちていって、静けさが終わった時には、消灯時間は変更なしで、ということに落ち着いていた。


空を見上げない限り、今が昼なのか夜なのかわからないほどの明るさ。空を見上げても、黒いから夜だとはわかるが、星がわずか数個しか見えないほどの、地上の明るさ。

夏、外は摂氏35℃にもなろうかというのに、建物内や乗物内では上着を着ても風邪をひきかねない寒さ。
冬、外は雪が舞っている。店内に入った客は厚いコートで汗ばみ、店員は薄いブラウスと上着で爽やかな笑顔。
亜寒帯から亜熱帯へ、ドア一つで行ける。

そこは地球なのだろうか。
もちろん地球だ。わたしたちはまだ地球以外の場所では生きられない。
だが地球にニセの仮面みたいなものをかぶらせているんだ。
その仮面の恩恵にあずかっているんだ。

2011-12-13

SCROOGE ~「クリスマス・キャロル」のミュージカル映画

ディケンズの小説「クリスマス・キャロル」は今までどれくらい映画化されたのだろう。
…Wikipediaによると8回らしい。
この「Scrooge」しか観ていない。そして、それだけでいい。と思っていたりする。
この世に「クリスマス・キャロル」の映画がこの1作しか存在しなくても構わないくらい、この作品に出会えて楽しかった。

色彩が美しい。イングランドだ。ヨーロッパの色調だ。深みと暗みがあって渋くて豊かだ。極上の赤ワインみたいだ。…イギリスだから紅茶にたとえるほうがいいのかな。

音楽が素晴らしい。ぶ厚く豊かなコーラスと。歓喜がはじけるようなリズムとダンス。

今年もクリスマスは、この映画を観ようかな。

2011-11-24

L'ultimo bacio / Tosti

「最後の口づけ」と訳されるのだが、語感がちょっと重々しく感じられるときもある。「最後のキス」のほうが合うように感じたりもする。

湖みたいな曲だなと思う。
ひたひたと連なる和音は、湖岸の永遠に寄せては返すやわらかい波音に似ている。
そして深い想い。目の前から消えてしまった人への。
どこへも流れて行かない。いつまでも心を満たしている。ゆたかな水が湖を満たしているように。

失った人を想い続ける心を、痛みとか淋しさとか後悔とか幸福感とか諸々全てを、優しくやわらかく包容しているようだ。


2011-11-13

リアル / 井上雄彦

この作品を絶賛する人は日本中に溢れているので、ここで絶賛の一言を付け加える必要はない気もする。が、書きたいので書いておこう。

この作品に出会ってから今まで、野宮という男にどれほど励まされてきたことだろう。
いや、そんなに頻繁に励まされてはいない。一年に一回、新刊のページをめくって、ついでに話を思い出すために既刊のページをめくる時だけなのだが。
それでも野宮に再会するたび、諦めない強さと、現実を受けとめる逞しさに、励まされた。
不屈という言葉が人の姿をとったら野宮になりそうだ。

そして高橋の、喪失と絶望の後、立ち上がろうとする姿にも。
高橋に関わる人々が、自分の存在そのものをメッセージとして高橋に何かを送っている。それを受け取ることのできる高橋の心の柔らかさに、希望を見た。
絶望しても、失っても、心が凍ったように見えても、他者の想いを受け取ることはできるんだ。
消え果てたように見えても、起き上がる力はまた芽生えてくるんだ。

リアル第11巻に出てくる  「絶望とは何だ」 問いと、その答え。
たくさんの人に味わってもらいたいと思うシーンだ。

2011-11-06

一杯の珈琲から / E.ケストナー

原題は DER KLEINE GRENZVERKEHR 「小さな国境往来」
ケストナーの作品には楽しい前書きがよくあるが、この作品の前書きもおもしろい。前書きだけで三つもある。

ドイツの青年が、やっかいな法律のせいで無一文の状態になってザルツブルグへ行き、きれいな娘さんにコーヒーをご馳走になったら・・・どうなったか? もちろん恋が始まった。
ところが・・・ という話。

モーツァルトのオペラ・ブッファが好きな人ならきっと楽しめる。伯爵とか女中とか、こっそり隠れるとか変装とか、モーツァルト・オペラを思わせる人物や仕掛けがちりばめられている。

別の面から見れば、この物語の主人公はザルツブルグという街だ。
ザルツブルグへ旅したとき、直前にこの本を読んでいたのだった。読んだとおりの姿の街が、文字から想像した以上の風情で現れて、あの街が好きになったのだった。

この本を読む時は、かたわらにコーヒーとモーツァルト・クーゲルがあると良いな。


2011-10-30

風翔ける国のシイちゃん / 中田夕貴

幼いお姫様が主人公のほのぼのマンガ。

という言葉から想像される世界とは、なんか違う世界がページから現れてくる。
幼いお姫様が主人公、というのは間違ってない。ほのぼのテイストも間違ってない。
しかし上記の言葉からは、シイちゃんの図太さと根性と小ズルさと愛らしさは見えないのだ。

シイちゃんはえらい。いずれは女王さまを継いで国を治める自分である、ということを理解していて、曲がりなりにもノブレス・オブリージを意識している。たまに。
シイちゃんは元気いっぱいだ。好奇心旺盛だ。それで困ったことが起きたりする。母の女王さまからおしりペンペンの罰を受けたりする。
泣いて謝るシイちゃん。しかしあまり反省しているようには見えない。というか反省しているとすれば「次はもっと上手くやったらあ」ということだろう。そのタフさが心強い。そして愛らしい。行けシイちゃん!

残念なのは、絶版であることと、コミックス未収録作品があるらしいこと。



2011-10-17

明るい星

数日前の満月の夜。
忙しさが一段落して、月をちょっと眺めた。白く輝く月をみるのは心地いい。
昇りはじめた月のすぐそばに、明るい星が光っていた。
驚いた、全天の星は月の光に圧されてほとんど見えないのに。

あの星は何だろう、とネット検索することに。
木星とわかって納得。

ちょっとびっくりしたのは、検索を始めた時のこと。
「ひがしのそ」
まで入力したところで、「東の空 星」「東の空 明るい星」「東の空の明るい星」とキーワード候補がズラズラズラ~っと。「東の空 明るい星」を選んだら、10万件を超すヒット。
たくさんの人が夜空を見て、明るい星を見て、「あの星は何だろう」と思ったんだね。
いろんなことを抱えている人たちが、いろんな思いを抱えながら、その瞬間だけは。
あの明るい光は何だろう、と。

2011-10-14

Anzoleta co passa la regata / Rossini

ロッシーニ 天才!と思うのだ。

LA REGATA VENEZIANA 『ヴェネツィアの競艇』第2曲、「競艇中のアンゾレータ」
第1曲もすごい、第3曲もすごい、もちろん。

で第2曲。
ヴェネツィアの海、水面が波立っている。その波立ちが見える。ピアノの響きの中に。
海の見えるありとあらゆる場所を埋め尽くす大観衆、興奮で顔は上気している。彼らの動悸が聞こえる。
その伴奏を背景に、恋人を見つめ手に汗握り「行けー!」と絶叫するアンゾレータ嬢のテンパリ。

イタリアでならロッシーニは音楽の神様みたいに崇敬されているだろうに、なぜ日本では運動会のBGMの人なんだ。
ロッシーニのどの曲にも満ちている、生命のリズム。他の誰も真似できないくらいに、生命の躍動感をまるごと音楽にしちゃった人じゃないかと思うのだ。



2011-10-02

アジア変幻記1『カヤンとクシ』 / 坂田靖子

夜の空気がさわさわと鳴り、樹々がむわっと湿度をもたらし、雲が飛びゆき、・・・

「この世界が命をひっさらってくことがあるんだよ
人間なんてたいしたもんじゃないからね」
おばぁの喋りのなかに、ついでのようにさらりと語られる死。自然への畏怖を知っているアジアの死生観。

男の子が何人か登場する。
王子だったり、浮浪児だったり。利かん気だったり、のんきだったり。骨太に生きている。

坂田靖子さんの抒情短編マンガには、俳句みたいなところがある。
すべてを語らない。短く一瞬で表現されるのは世界のかけらだ。
そのかけらが窓になり、広く深く果ての知れない世界を見せてくれる。
世界がどこまで見えるかは、読み手によるのじゃないかと思う。読み手が内に持っている世界の広さ深さによるのじゃないかと。
こちらの経験が深くなれば、味わいも深くなる。
年を重ねて読むたびに見える世界が広がっていく作品だ。



2011-09-21

Somebody To Love / QUEEN

信じられないことに、邦題は『愛にすべてを』というのだ。・・・昔の青春恋愛映画?
「責任者出てこ~い」と呟いてしまう。

信じられないことに、全米13位だったそうだ。この名曲が?
まあアメリカだからな・・・

フレディ・マーキュリーの歌いっぷりが圧倒的だ。熱っぽくて、鋭くて、いかれてる!
声がまだ若く甘いころ。香り高くコクがある。可愛らしさもある。ナッツみたいな声。
後半、ぶ厚いコーラスが生命の芯のようなものを揺さぶってくる。
聴いてるとあんまり凄いので、うれしくてあばれたくなってくる。


2011-09-11

泥流地帯 , 続・泥流地帯 / 三浦綾子 ~6ヶ月の節目に

福島・宮城・岩手の復興を思い、道遠さを思う。
そして三浦綾子のこの小説が思い出された。
北海道上富良野の災害に取材して書かれたそうだ。

十勝岳が噴火し、泥流(火砕流+雪崩?)が集落を襲った。家族も家も流され、田畑は硫黄の臭いを発する岩石・泥・流木に覆われた荒野となった。その荒野に、実りをもう一度取り戻そうとする兄弟。

ごつごつと大きく力強い岩盤のようなものが、この作品の底にあるのを感じる。登場人物たちはその大地に生きている。

3月11日からこの半年、突きつけられ続けている問い。
   何かをしなくては。でも何をどうすればいいのか?
途方に暮れることが多かった。
だが、人の身体は前進しやすいように出来ているのだ。じっとしていなければ、動きさえすれば、前へ進みだす。
この作品の主人公兄弟のように。一歩を踏み出していこう。また次の一歩。


2011-08-27

Stornellatrice / Respighi

広大なレスピーギの音楽世界のなかで、この歌は小さな小さな丘のようだ。
小さな丘だけど大空に向かって誇らしげだ。
明るい、心地よい陽射しをさんさんとうけている。
小さな野の花が揺れ、小鳥もちょんと降りてきたりする。

ふもとには透きとおる泉。尽きることなくこんこんと湧き、すべてを潤す。
ゆたかな音楽の泉。



2011-08-16

アベックラーメン (五木食品)

熊本に叔母が住んでいる。幼い頃、叔母が来た時のおみやげはいつもアベックラーメンだった。

麺好きなのでわりとたくさんの市販袋ラーメンを食べてきたほうだと思うが、アベックラーメンより美味しく感じる袋ラーメンには出会ったことがない。できれば常備したいくらいだ。
だが出〇〇丁やサ〇〇〇〇〇味噌ラーメンみたいに日本全国どこの店の食品売り場にもある、というものではなく。おいてある店を探すのが難しかった。

ところが。
先々週8月4日、「秘密のケンミンショー」にアベックラーメンが登場したらしい(非常に残念なことに見逃した)。
人気番組で取り上げられたおかげで近所のスーパーマーケットに山積みで売られていた。ありがたいことだ。このまま取り扱い続けてくれたらいいけど。

2011-08-04

青菜と海苔のポン酢あえ ~ 夏向き、さわやか、簡単レシピ

生野菜がメインになりやすい夏の食卓。
ミネラルの多い青菜を摂るのに、こんなのはいかがでしょう。

  青菜 ・・・ 食べたい量
    (ほうれん草とか、小松菜とか、ツルムラサキとか、なんでもOK)
  焼き海苔 ・・・ 好きな量
    (目安としては青菜2~3株に対し1/4切程度かな?)
  ポン酢 ・・・ 適量
  ごま油 ・・・ 少量
  醤油  ・・・ 少量(無しでもOK)

1, 青菜をゆで、食べやすいように切る。
2, 焼き海苔は軽くあぶり、小さくちぎる。
3, 1と2をよくまぜる。
4, ポン酢、ごま油、醤油であえる。

超簡単!
海苔とごま油が香ばしく、ポン酢もさわやかで、ついつい箸が出ます。
サッパリした味わいが好みなら、醤油は無しのほうがいいかも。

以前、調理の先生に教えていただいたお手軽レシピ。

2011-07-25

嶋基宏選手のスピーチから ~ 7/24仙台

7月24日、仙台でのプロ野球オールスター戦
嶋基宏 楽天選手会長のスピーチより一部分

       ・ ・ ・ ・ ・
僕たち野球選手の使命は、野球の魅力や、そこから生まれるドラマを通じて、「ヒトの生きる力」に貢献する事だと思います。
       ・ ・ ・ ・ ・

 《生きる力に貢献すること》
これだろう。これに尽きる。
「野球」の部分を、さまざまに置き換えるなら、全てのスポーツ、芸術に当てはまる。

今までスポーツ選手やタレントさん達の「勇気を与えられるように頑張ります」的発言を見聞きするたび、違和感を覚えていた。

与える って、上から物を言ってるよね?

スポーツ選手もアーティストも芸術家も、自分の芸で人様からお金を頂くことによって、食べていける。
自分の芸で、お客様が「生きる勇気が出た」「頑張ろうという気持ちになれた」と思ってくれるなら、幸せ。一人でもそう思ってくれるなら。
野球の神様の前であるいは芸術の神様の前で、謙虚に頭を垂れて、神様が自分の芸に降臨してくださることを願い、その素晴らしさをお客様に伝えることに全力を尽くす。その結果として、お客様が「元気が出た」と思ってくれるなら、幸せ。
生きる力とか勇気とか、それは選手やアーティストが与えるものじゃない。選手やアーティストを通して、スポーツや芸術が与えるものだ。
選手やアーティストは、それに貢献するために存在する。

嶋選手の言葉の通り。

貢献できるようにがんばろう。

2011-07-21

Chanson de Pâtre (羊飼いの歌) / Gounod

音楽が清々しい風になったみたいだ。澄んだ美しさ。
グノーの歌曲。

夏(春かもしれない)の丘、そこここに草を食む羊たち。
ゆるやかな時間の中で、主人公ひとりが心を弾ませている。
遅い夕方、ゆっくりゆっくり空の蒼が濃くなるだろう。やがて金星がひらりと光る。
そしたら砂浜へ行こう、金髪の少女を待つんだ。

草の香り、風の肌ざわり、空の高さ。そして主人公のドキドキ。
さわやかな、みずみずしい曲だ。



2011-07-10

宇宙生物学とET探査 / 大島泰郎

かなり前に出版されたものだから、今では古書店でしか目にする機会は無いかも。
専門書ではない。一般向けに平易に書かれた入門書だ。
ずば抜けて面白い本でもない。身も蓋もない言い方をすれば平均点な本。

だが心に残っている本だ。わずか4行によって。
「地球外生命への送信」と題された節のなかの、生物手紙について述べられた部分、その末尾4行。
宇宙生物学というものがもたらす夢のうちで、最もロマンティックなものの一つがそこにある。
わたしたち地球の生命はじつは宇宙からの手紙じゃないかと・・・


2011-07-02

秋の空  八木重吉・畑中良輔

八木重吉の詩は深い。
心を打たれる人はきっと多く、だからその詩に作曲する人が何人もいる。
畑中良輔さんのこの曲。心にしみる。
いま苦しい思いをしている人の、苦しさを少し外に出してくれて、ふわ、と寄り添ってくれて、一緒に苦しんでくれて、ジョウロで花にほろほろ水やりするみたいに静けさと愛をそそいでくれるような。

たとえば、
生きていることが重過ぎて、重さにひしがれている人に。生きることをもう手放してしまいたいと思ってしまう人に。
届いてほしいと願う曲だ。

2011-06-26

命あること

忘れられない話がある。
何年も何年も前、新聞の投書欄に載っていた。書いたのは年配の男性だった。

        ・ ・ ・ ・ ・ ・
太平洋戦争の話。
その男性は、日本兵として南方の島の激戦地にいたそうだ。
食糧は底をついていた。果実だの芋だの食べられるものはその島には無かった。何も無かった。
暑く湿度の高い土地で、病気にかかる人もいた。敵兵に見つかれば殺された。
飢えと、病気と、銃弾が、ずうっと彼らの部隊につきまとい、一人また一人と命を奪っていった。

何日も食べず、飢えながらジャングルをさまよっていた彼と戦友は、ある日、べつの部隊の日本兵に出会ったが。
その日本兵はすでに息絶えていた。敵の攻撃を受けたと思われた。血がずいぶん流れて地面を変色させていた。
身体の下に、背嚢があった。
彼と戦友はその背嚢を開けた。

食糧があった。
米。

赤い米だった。
血が背嚢の中にまでしみこんで、赤く染まった米だった。

彼らはその米を食べ、飢えから救われた。

戦争が終わり、日本に帰り、もう命をおびやかされることなく、まあ幸福な生活を送っているその男性は、祝い事の赤飯を見るたびに、あのジャングルで食べた赤い飯を思い出すそうだ。
        ・ ・ ・ ・ ・ ・

男性の投書はこのような内容だった。
血に染まった飯を口に入れた時どんな気持ちだったとか、今の自分が赤飯を見てどんな気持ちになるとか、そんなことは書かれていなかった。
軽々しく言葉にできることではないのだろうな、と思った。

赤飯は、何かを祝って食べるものだ。
あの日あのジャングルで、偶然は彼らに赤い米を与えた。偶然というのがいやなら天がと言い替えてもいい。神様がと言うべきか。
何かを祝って? 命あることを?

平和な幸福なある日、家族に祝い事があって赤飯が食卓に供される。そのとき彼は、かつての自分もあの日祝されたのだなと、感じることはあっただろうか。
それとも、たくさんの僚友が死んで自分は生きのびてしまった・・・という苦い思いにとらわれたただろうか。

背嚢の持ち主の魂は、あの光景を見ただろうか。自分は命を落とし、自分の食糧のおかげで見知らぬ人間が命をつなぐ。自分がその食糧で命をつなぐことはもう、叶わない。

血で祝された食事、と思うとなんだかきもちわるく感じられる。だがそんなこと感じるのは戦争を知らずにすんでいる者の傲慢だろうな。
実際には、生きるためのこと、ただそれだけのシンプルなことだったにちがいない。

命はひとつの奇跡だ。生きて在るということは、世界中で祝福したっていいくらいだ。
震災直後、生きて見つかる人がいるたびにわたしたちは喜んだ。
海上を漂流していた犬が助けられたとき、どんなに日本中が笑顔になったか。世界も。


だが命がこんな祝いかたをされてしまう。戦争の中では。
               

2011-06-19

Esti dal / Kodály

コダーイの合唱曲。「夕べの歌」や「夕暮れの祈り」と訳されることが多いようだ。カンテムス少年少女合唱団による演奏で聴いたことがある。日本の少年少女合唱団の演奏でも聴いたというか歌ったな。

空気の乾いたヨーロッパの、なるべくならハンガリーの、石造りの聖堂で、いや古びたホールでもいいが、聴いてみたい! と思う曲だ。
湿度の高い日本でさえこれほどの響きだから。

重なり合い溶けてたちのぼる響きの美しさ。
空中のどこか高いところから幻のように出現する倍音の魔力。
空気が真珠のような光を帯びる。

You Tube ではプロムジカ女声合唱団が聴ける。
       http://www.youtube.com/watch?v=ZmmaGyNmZvY
この合唱団ならではの清らかな響き。至福の音楽。


2011-06-09

天から降ってきた泥棒~スラップスティック・クライムノベル

D.E.ウェストレイクのドートマンダー・シリーズ、その第6作。

読みながら全ての場面の映像が目に浮かぶ。極上のコメディ映画を観ているようだ。
常に不運な泥棒(しかし泥棒の才能はある)ドートマンダーが、お仕事中に不運にも警察に捕まりかけ、逃げた先が修道院。尼さんばかりの。しかも無言で生涯を過ごす誓いをたてた尼さん達の。
天井からずり落ちそうなドートマンダーを見つけて、無言のくせに仕草はチョコマカかしましい尼さん達という、のっけからパントマイム・コメディ。それを読ませるウェストレイクの筆力がすごい。
さて尼さん達に頼まれて、ドートマンダーが仕方なく盗み出すことになった獲物は・・・

笑って頭の中を風通しよくしたい時に読む。


2011-06-02

Bel Nume che adoro / Cimarosa

イタリア古典歌曲の中で一番好きかもしれない。
幸福な音楽。素直に美しい。
チマローザの、シンプルでありながらスケール大きなメロディとともに飛翔する幸せ。
その美しさは一見、弦楽器や管楽器などでの独奏にも向きそうに思える…が、きっとあまり向かないんじゃないかな。比較的向くのはホルンあたり…?
だがやはりベルカントの、どこまでも明るい、天を翔けゆく声で奏してこそ、鳥肌の立つような感動が。


2011-05-24

La zingara / Donizetti

う~ん しびれる。かっこいい。
曲名『ジプシーの女』と訳される。ドニゼッティの歌曲。曲の後半はドニゼッティらしくアジリタが軽やかに踊りまわる。

だがこの曲のしびれるような高揚感は、アジリタによるものではないのだ。
冒頭のダイナミックなユニゾンに導かれて、決めゼリフ! それに続くのは、抑揚のないメロディ。ドラマティックな和音を従え、女王のような威厳で立つ。
この冒頭数十小節だけでこの主人公の、一人の人間としての誇り、何ものにも縛られぬ自由、大地を踏みしめて立つ強さ、が押しよせてくる。
生きている喜びが燃えたつようだ。生命力に圧倒される。


2011-05-16

華栄の丘 / 宮城谷昌光

寒い野外で熱いスープをすすりながら「旨いな」と、大声を放つ男。
大声のわけは、祖先の霊に聞こえるように。食事をする時は祖先の霊が降りてくると思っているから。冬空の下で温かい食事ができる感謝を伝えているのだ。自分を守ってくれる、もうこの世にいない家族、一族に。一緒に食卓を囲んでいる気持ちなのだ。
その声の温かさ。ページの向こうから、湯気の温かさと共に伝わってくる。

古代中国、宋の宰相・華元。
おおらかに、優しく、やわらかく、力まず、正しい道を外れない。なんて難しいことを自然体でやっちゃうんだろう、この人。他人を責めず、寄り添う心の大きさ。砂利の中から一粒の宝石を探すようにして、皆が幸せになる途を見つけようとする、心の濃やかさ。

見たことない漢字がいろいろ出てくる。知らない二字熟語がいろいろ出てくる。漢字が苦にならない人におすすめだ。


2011-05-11

Nell / Fauré

なんて繊細で明るい和声だろう。リズムだろう。旋律だろう。
この曲に触れるたび、ある語句を思い出す。
「生命の躍動に満ちている」

野を吹く風のように始まり、高らかに歌い上げ、第3節にいたって天上から星のきらめきが降ってくる。第4節の詩 "La chantante mer"「歌う海」 "son murmure  éternel"「その永遠の呟き」 このイメージに魅了される。詩人はルコント・ド・リール。
フォーレの曲。のびやかな愛の歌。


2011-05-06

ニルスのふしぎな旅(アニメ)

Nils! Come on Nils! Come on up!

という妖精じみた声の呼びかけで始まるオープニング主題歌から、ひきこまれた。
お話は本で読んでいたから知っていたのに、目が離せなかった。
ニルスの姿もかわいかったが、小山茉美さんの声が愛らしかった。レックスの富山敬さんはさすがの上手さ。
闘いの場面で流れた突き進むような音楽は、チャイコフスキーの交響曲第6番『悲愴』第3楽章。
いい作品だったな。

2011-05-05

クルミッ子(鎌倉紅谷)

あまりスイーツ好きではないのだが、この《クルミッ子》は特別。

クルミがどっさり入ったキャラメルを、クッキーでサンドしてある。
かなり甘いのに。激甘は苦手なのに。・・・ああなんて美味しい。
キャラメルにもクッキーにもほんのり苦い香ばしさがある、もちろん胡桃にも。その香ばしさのおかげで甘さをくどく感じない。
コーヒーに合います。

鎌倉紅谷のお菓子。鎌倉近辺に行かれるかたは、お土産にどうでしょう。

2011-05-04

Luoghi sereni e cari / Donaudy

ドナウディという人の心は、感傷的で流麗な音楽に満ちていたのではなかろうか。19世紀末~20世紀初めのイタリアの作曲家。オペラや器楽曲も作ったようだが、日本でよく知られているのは歌曲。

Luoghi sereni e cari 『明るい懐かしの地』は、ドナウディの曲の中では知名度は中程度かもしれない。
大人の曲だ。あふれる想いが、ほとばしり出るのではなく、地中に沈み出口を求めて渦巻いている。取り戻せない時。失った大切な何か。
声が語り尽くせないほどの胸の痛みを、ピアノがやわらかく語る。

2011-05-01

森のレストラン ~ 美味しいイタリアン

島根県江津市に先月オープンしたばかりの、イタリアンレストラン。
今日、ランチしてきました。
明るいフロア 笑顔のスタッフ そして美味しい!
今日いただいたのは「春キャベツとベーコンのアーリオ・オーリオ」 ブラックペッパー好きのわたしは満足。
特筆すべきはパン! ヨーロッパ・テイストもありつつ、日本人好みのモチモチ感もある。おかわりしてしまった…。
この味でこの値段、ちょっとありえないのでは。
(パスタランチ¥1,000 ピッツァランチ¥1,000でした)

江津市に行かれるかたは、《森のレストラン》にぜひ足を運んでみられては。
場所は、江津市総合市民センター(ミルキーウェイホール)隣、済世会病院の斜向かい。
  tel:0855-52-2822
ただ残念なことに、月~木は17時まで。金~日は20時まで。

2011-04-24

気ままなプリマドンナ ~ ミステリー

バーバラ・ポールという作家が書いたミステリー。もう今は絶版、古本屋さんでしか出会えないのでは。
舞台はニューヨーク、メトロポリタン・オペラ。
時代は第一次世界大戦のさなか。
登場人物は、カルーソー、トスカニーニ、などメトのオペラ関係者たち。
探偵役は、当時のニューヨークの歌姫ジェラルディン・ファーラー。
推理小説としてはインパクトは弱いかな。どんでん返しもないし。「うまく騙された~」「作家と知恵比べだ」みたいな感じの本ではない。

この本の何がすごいって、オペラ歌手たちのリアルな思考、言動。
「こういう性格のソプラノなら確かにこう行動するよな」「こういうテノールいるいる」
というのが楽しい。
そして主人公の、音楽に取り組む真摯な姿勢、誇り高さ、音楽と音楽仲間への愛情、それらに刺激される。自分を奮い立たせたい時、読み返したりする。


2011-04-14

Malia(魅惑) / Tosti

Malia の i  の上の点は、本当は点じゃなくてアクセント記号( ` これの逆向きみたいの)なのだが。

軽やかで明るくて陶酔感がある。
トスティ世界を地球にたとえたら、この曲は亜熱帯~温帯に位置しそう。心地よい気候と、花の香り、フルーツのような甘さ。
もう20年以上前になるかなあ カルロ・ベルゴンツィが日本でのリサイタルでこの曲を歌った。けっして甘い声ではないのに・・・テンポの甘やかさ、うっとり感。これぞイタリアン・テノールという歌だった。

2011-04-12

D'une Prison~HAHNの曲

フランスの作曲家アーンの作った曲。
ヴェルレーヌの詩がいい。ピアノと声の響きあう音に詩情があって、美しい。
悲しいような憧れに満たされていく。
アーンは、フォーレやラヴェルのようには日本であまり知られていないが、きれいな曲を作った人だ。もう少し人気が出てもいいのにな。

2011-04-09

希望という名の光 ~山下達郎さんの

先日、NHKの「SONGS」で山下達郎さんのメッセージと、歌が流れていた。
メッセージに感動。
そして、歌に涙がこぼれた。
この歌、たくさんの人に届いたらいいなと思う・・・

希望という名の光  シングルCD
Ray Of Hope  アルバム